鹿児島県大崎町の藤岡数雄さん(55)、美江子さん(52)夫妻は、黒毛和種の繁殖雌牛74頭を家族3人で飼育している。子牛1頭あたりの生産原価は16万3千円。自給飼料の活用や、徹底した低コスト・省力化の取り組みが特徴だ。家族経営協定も締結。独立経営の二男と機械を協同利用するなど、独自の家族協業も実践している。夫婦連盟で天皇杯を受賞した。
数雄さんは1966年、地元農業高校を卒業後に後継者として就農した。しばらくは、父親とともに軽種馬や、サツマイモ、陸稲、野菜などを生産していた。76年に美江子さんと結婚し、繁殖雌牛7頭から子牛生産を始めた。
40頭規模まで拡大した89年、繁殖専門の経営に転換した。「それまでが資金面などで1番大変だった」と美江子さん。必要以上の投資をせずに可能な限り経費を抑えることを第1に考えてきた。増頭も低コスト化の一環だった。
今でも投資を抑える努力は欠かさない。10棟ある牛舎のうち8棟が手作り。トラクターなど農機の整備・修理や、牛の除角などは、数雄さんが自分でやってしまう。農機は定期的に管理日誌をつけるなどして故障を未然に防いでいる。
飼料畑は約17ヘクタール(うち6割程度が借地)。夏作はローズグラスや夏草、冬作がイタリアンライグラスと大麦で、ロールベールラップサイレージにして通年給与する。数雄さんは「ラップサイレージ体系の導入で労力を大幅に削減することができた」と振り返る。飼料畑が広いため、たい肥の利用にも困らない。
家族経営協定の締結は98年。美江子さんの農業者年金加入がきっかけだった。「経営について意識するようになった」と美江子さん。家族の役割分担や、給料、休みもはっきりすることができた。
現在は、夫妻と長男の3人が労働力。同じ敷地内では昨年、二男が40頭規模で独立した繁殖経営を始めた。事業との関係もあったが、「責任とやりがいを持つためには独立経営のほうがいい」(数雄さん)という考えからだった。
飼料作用の機械などは、二男と協同利用することで経費を削減している。作業の協業で生活にゆとりも生まれた。長男、二男が就農するまでは、美江子さんも飼料収穫時期はトラクターや2トントラックを夜遅くまで運転していたという。美江子さんは「今では交代で休みをとったり、旅行に行くこともできる」と喜ぶ。
県の畜産試験場などの協力を得ながら最新技術も積極的に導入する。低コスト飼料として焼酎かすを活用。事故防止や省力化のための昼間分べんにも取り組む。子牛は早期離乳して、ほ乳ロボットで「管理している。
1頭あたりの飼養管理時間は48時間。平均分べん間隔は11.8ヶ月で1年1産を実現。所得率58.7%と高い収益性を挙げている。「特別なことはしていない」と数雄さん。個々の技術は、誰でもできることばかりだという。「土地を生かして良質な牧草を生産し、健康な牛を育てる」のが経営方針。150頭規模へ拡大が当面の目標だ。
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