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【佳 作】
鹿児島市立吉野中学校  2年  福島 健太 さん

「一粒のたから」

  ぼくの祖父は、六十年以上米作りをしています。周りの人達には、「田神さぁ」、と呼ばれているほどです。雨の日も風の強い日でも台風の真っただ中でも、自分の田んぼに行き、稲を一本一本、ただじっと見つめています。

 夏休みのある朝、ぼくは祖父の後につき、田んぼに行きました。
祖父の田んぼは、みどりでいっぱいです。黄みどり、青みどり、明るいみどり、暗いみどり、朝つゆにぬれたみどりの葉から、みどり色の、しずくが落ちています。
「なぁ、健太。みどりの香りがするだろう。」
祖父の目からキラリと光る物が落ちていました。ぼくの祖父は、二年ほど前に肺がんと戦い、片肺を無くしました。二〜三歩あるくだけで、息が切れてしまうのです。医者から「早く手術を。」と言われても、田植えをすませてから、「まだ退院は。」と言われても、稲が心配だと退院してしまう祖父は、毎朝夕に田んぼに出かけ、何かをかたりかけている様に、じっと見つめています。
「なぁ、健太。いつまで作れるかなぁ。」
祖父は一人言のようにつぶやきました。
自分の命が続く限り作り続けたいと思っているはずです。ぼくは、時間がゆるすかぎり、祖父と一緒に田んぼに行くつもりです。
何かを教えてくれるわけではないけれど、祖父をみながら、ぼくも米作りを学んで行きたいと思います。

 今の世の中は物があふれ、すぐに手に入ってしまう。物のありがたさ「感謝」の気持ちが、うすれてしまっていると思います。祖父の米作りを見て育ったぼくら家族は、毎日の食事に、「ありがとう。」と、手を合わせています。米一粒一粒に、祖父の思いがつまっているからです。今日もおいしい米が食べられる事は、元気な祖父のおかげだと思います。