それは、私の体育際の日だった。私の学校の体育祭は時期が早く、六月の中旬にある。今年は梅雨と重なってしまい、当日、雨が降った。でも雨天決行と決められていたので、小雨の中、実施することになった。
その日、母は前々から決まっていた用事で、体育際に来られなかった。私は、できたら来てほしかったが、決まっていた用事ならしかたないし、私は体育祭で活躍できるタイプでもなかったので、別にいいやとあきらめていた。だから、体育祭には父が一人で来ることになった。父は料理が得意だから、お弁当の心配はなかった。なにしろ、幼稚園の頃から、私と兄のお弁当は、ほとんど父の手作りだった。
父は朝早く起きて、お弁当を作っていた。今考えると、大変だったと思う。そして、私が出る競技の時間になると、お弁当やジュースやらお菓子やらをかついで、競技を見に来てくれた。残念ながら、私は短距離走で最下位をとってしまった。でも、それは幼稚園の頃からのことだし、気にとめなかった。父も笑ってあまり気にしていないようだった。
父の手作り弁当は心がこもっていて、本当においしかった。父の手で握ったおにぎり、そして私の好きなおかずをたくさん入れてくれていた。私はたくさん食べて、競技などの出来事をたくさん話した。父も楽しそうに聞いてくれた。
いつからだっただろうか。雨は少し強さを増し、気温が下がり、肌寒くなった。みんな髪や顔がびしょ濡れだった。私も濡れたが、もともと体が丈夫なので、風邪をひかなかった。それでも疲れてぐったりして家へ帰った。
「ただいま・・・・・・。」
元気なくそう言った。返事がなく、二階の父の部屋にいくと、父はふとんに寝ていた。
「おかえり・・・・・・。」
父は私よりも元気なく言った。私は疲れたんだろうと思って、特に気をとめず、リビングにおりて宿題をした。
夕飯はお弁当の残り物だった。父は風邪をひいたと言って、少し食べて部屋にあがった。
次の日昼食。父は私にお金を渡して、
「コンビにで何か買ってきて。」
と言った。でも私は、なぜかそうはしたくなかった。それじゃあ、どうするか。母は明日にならないと帰らない。ということは私が、何か作るしかない!しかし困った。何を、どうやって作る?私は、自分が病気の時、何を食べたか思い出した。
「お粥。あと・・・・・・みそ汁かなぁ。」
おかずはまだお弁当の残りがある。そして、あと一つの問題はすぐ解決できた。学校の家庭科の教科書を見て作ればいい。家庭科の教科書は、こういう時に使える物だ。
お粥のレシピは教科書になかったが、ご飯の炊き方を思い出し、水を多く入れて弱火でグツグツ炊いたら、思いのほかよくできた。
みそ汁は、案外時間がかかった。まず、昆布でだしを取らなければならなかった。けっこう複雑だなぁと実感した。
作り始めて、かれこれ四十分。ようやくお粥とみそ汁が完成した。初めてにしては、なかなか上出来だったと思う。お茶碗によそって父に持っていくと、父はびっくりして、
「作ったの?」
と聞いた。父は、私が料理が得意ではないと知っていた。食べおわると、
「おいしかったよ。ありがとう。」
と言ってくれた。私はとても嬉しかった。おそらく、「私が今年言われて嬉しかった言葉ベストテン」に入るだろう。
父は翌朝すっかり元気になった。父の笑顔を見ていたら、ちょっぴり恩返しができたようで嬉しかった。お粥が私と父の絆を今まで以上に強くしてくれたような気がしている。
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