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【JA県中央会長賞】
南九州市立頴娃中学校  1年  福吉 泰良 さん

「父の手伝い」

 「泰良、行くぞ。」
父の言葉で目が覚めた。時計を見ると、まだ朝の五時過ぎだ。

 僕は眠い目をこすりながら、昨日の夜、父と稲刈りに行く約束をしたことを思い出した。いつもは姉たちが手伝ってくれる。しかし今年の稲刈りは、姉たちにそれぞれ別の用事があり、
「泰良、手伝ってくれないか。」
と父から、頼まれた。僕は、父に頼りにされているのが嬉しい気持ちで、すぐに、
「いいよ。」
と返事をした。僕だって、もうたくさん手伝いができるということを見せたい気持ちでいっぱいだった。

 四ヵ月ほど前、父が機械で苗を植えた。僕は機械では植えられない隅っこに苗を植える手伝いをした。あれからあの田んぼの稲は、どうなっているのだろう。それ以来、田んぼに足を運んでいない僕は、稲の成長を楽しみに、父の車に乗り込んだ。

 田んぼにつくと、四ヶ月前に植えた稲は、驚くほど成長していた。父はすぐに機械を操作して、稲を刈り始める。僕は、その様子をしばらく眺めていたが、
「泰良、してごらん。」
と父に言われ、機械の操作を教わった。余計なことを考えると、すぐに機械は曲がって進んでしまう。僕は、真剣にただまっすぐ先を見つめ、機械を動かしていった。カーブは、余計に難しく、まごまごしていると父は、やさしい顔つきで手伝ってくれた。

 父の指示で、それからも僕は一つひとつの仕事に、一生懸命取り組んだ。たくさんの汗が体からしみ出し、流れていくことが分かった。暑いけど、たまに吹く風が、心地良い。風は、僕を優しい気持ちにしてくれた。さわやかな汗とはこういう汗なのかな。僕は、父が田畑の仕事が好きな理由が分かった気がした。
「休けいしよう、泰良水分を取れ。」
と父が言った。クーラーボックスに入っていた水は、とても冷たく、今まで飲んだ水の中で一番おいしく感じた。

 それからまた、すぐに手伝いは始まった。次は、稲を干す作業を手伝った。最近は、稲刈りから脱穀まで行ってくれる機械もあるらしいのだが、父は稲の穂を下にして、天日に干したお米の方が絶対においしいと自信満々に言う。農業の機械化が進む中で、収拾選択をし、父は自分の考えをしっかりと持って、仕事をしていることを知った。そんな父を僕は、とても誇らしく思う。

 しかし、この作業は大変だった。機械が刈り取り、束ねた稲を手作業で干していく。稲の束は、自分の身長と同じくらいで、そのまま持ち上げると前が見えなくなる。僕は、上手に肩にかつげるようになるまで時間がかかった。軽々と稲を持ち上げ、素早く干していく父を見ていると、自分がまだまだ一人前でないことが分かった。少し悔しかった。
「泰良、よくがんばったね。」
稲を全部干し終わると、父は言った。あとは、稲が乾燥してから、脱穀、籾すり、精米の行程を経て、やっとおいしいお米が出来る。僕は、その日が待ち遠しくてしょうがなかった。

 お盆になり、母が、
「今日は新米だよ。」
と言って、茶わんにご飯をよそってくれた。僕は一口食べて、思わず涙が出そうになった。お米作りの苦労を以前より知った分、そのお米の味は格別だった。

 今年の夏、僕は、父が何より好きな田んぼの仕事を、たくさん手伝うことができて良かった。お米作りの苦労を理解したことはもちろんだが、お米を作る楽しさ、仕事に誇りを持ち、取り組む父の姿を見ることができた。早く僕も一人前になりたい。